浅羽ネムの長いひとりごと

誰かの言葉に乗っかるのではなく自分の言葉を紡ぎたい。

茜色に焼かれる


www.youtube.com

7年前、元官僚の高齢者が運転する車と衝突してあっけなく夫が死んだ。遺された妻田中良子は加害者側の事務的な態度が気に障り賠償金を受け取らずカフェを経営して生きていたがコロナ禍の煽りを受けて閉店。息子と共に生きていくため彼女は昼はスーパーの花売り場、夜は風俗店で働いている。

この概要だけ読むと何か困難にもめげずに生きる肝っ玉母ちゃんな話みたいに思われるかもなんだけど、そういう希望が持てる感じとは少し違います。それ以前から実は存在していた女性の生き辛さがコロナにより顕になったという感じです。

「女はいいよな、いざとなったら体を売ればいいんだから」ってセリフが出てくるんだけど、去年某芸人の「コロナ禍で就職難になるからかわいい子が風俗に来るようになる」って発言があったり、別なところではネットで「風俗はセーフティネット」って暴論が飛び出したりしてましたよね。これ自分からは相当グロテスクな発想に思えるし、「いやいや体はもちろんのこと心にも負担が大きすぎるしそんな手を叩いて喜んでいいことじゃねえぞ」って思うだけなんだけど、この発想ができる軽さ、ナメてる感じ、何も考えてない感じ、そういったものが主人公の田中良子や同僚の風俗嬢ケイを踏みつけている。「こんな仕事やってる女」と蔑んでる相手にフェラチオさせる画って女の自分からすると相当グロくて屈辱的に見えるんだけど、これって男性の目からはどう見えるのかな。「オカズ」に見えるのならやるせないなと思う。

良子は日々の生活費のみならず義父の介護費、夫が外に作った娘の養育費など彼女が責任を持つ必要があるのだろうかと思う金まで工面するためにこんな働き方をしていて、その点では決して賢い生き方とは言えないし、全ての観客の共感を集める主人公ではないと思える。ただ世の中は賢く要領良く生きられない人の方が多いわけで、そんな人たちのやるせなさをえぐる造形ではあるのかも…というか、劇中のどの男たちよりも良子を苦しめてるのって亡き夫じゃねえ!?でも良子はそんな彼を愛しちゃったから仕方ないと言う。観てるこちらはそれ言われたらもう正しいも正しくないもなく「そ、そうか…」と思うしかない。

f:id:asanem800:20210529205005j:image

ただまあ、そうやって毎日踏ん張って周りに「まあ頑張りましょう」って言い続ける彼女の行動は全てが芝居なんですよね。本心では苦しい現実に対する怒りも悲しみも渦巻いている。でもそれを表出したところで何かが解決するのかというとそんな時間があるなら働かなければって心境にはなるだろうし。そして溜め込んだものが限界を超えた時良子は自らを蔑んだ者に包丁を向け、ケイは───。

ちょっと思うこととしては、ここまで困窮してる人が税金の助けを借りることは何一つ問題ないことなのでそれを言う人間が欲しかったなあって。今苦しんでる人達の“後押し”になってしまってもまずいと思うので。

Amazonで貼れるものが何もないのでおかしの家を貼るよ。別に繋がってる話でもないけど共通してるところはあるかな。