浅羽ネムの長いひとりごと

誰かの言葉に乗っかるのではなく自分の言葉を紡ぎたい。

ウルトラマンブレーザー二次創作小説「昼間のパパ」

ナレーション?「久しぶりの休日を脅かす電話。父を気遣うヒルマジュンの起こした行動とは?次回ウルトラマンブレーザー(の存在しない回)『昼間のパパ』守れ、穏やかな安らぎを!」

ただの思いつきであり、ブレーザーくんInゲント隊長でのてんやわんやを書いてみたかったというものです。なんかめちゃくちゃ長くなってしまった。(斜体部分が本文)

 

   昼間のパパ
 ある晴れた日、ヒルマジュンはタブレットで少し前のニュース動画を観ていた。それに映っていた怪獣の仕草がかわいいと思い、リビングのドアを勢いよく開けた。
「パパ!見てよ!かわいい怪獣!」
 そう、今日ジュンの父親ヒルマゲントは休みのため家にいる。いつも仕事が忙しくてなかなか家に帰ってこない彼と過ごす日はとても貴重だ。
「……」
 しかし息子に呼びかけられてもゲントは何も答えずただ空を見つめていた。その左目にほんのりと青い光が輝いているがジュンは気づかない。
「パパ……?」
 パパ、どうしたんだろう。そういえばこの前皿洗いをしていた時にもこんな感じでぼんやりしていた気がする。そう思いながらゲントの肩を掴もうとしたジュンの脳裏にほんの三十分ほど前に母親ヒルマサトコに言われた言葉が蘇った。
「いい?ジュン。パパはいつも忙しくしてるでしょう?今日のお休みの日くらいはゆっくり休んでほしいんだ。ママこれからお買い物に行ってくるけどパパをよろしくね。迷惑かけちゃダメよ。」
 そうか、きっとパパは疲れているんだ。ママが言ってたようにちゃんと休ませてあげなくちゃ。父親の肩を掴もうとしていた手を止めてジュンはその横に座る。並んで座ってみてわかったことだが、ぼんやりしているように見えたゲントの目はゆっくりと流れていく雲の形を追っていたのだ。空の青さに映えるように細くて白い雲が静かに形を変えていく。
「パパ、お空きれいだねえ。」
「……」
 またも息子の呼びかけに答えない父親は雲の流れをじっと見つめている。ちょっと寂しいなと思いながらもジュンは久しぶりにゲントと同じものを見ていることが嬉しくもあった。
「ピリッピリッピリッ!」
 穏やかなひと時を切り裂くかのようにゲントの携帯電話が鳴った。しかし流れる雲に夢中なのか、彼は一瞥もしない。どうしよう、どうしよう、焦ったジュンは思わず手を伸ばす。
「もしもし、ヒルマです。」
 特殊対応分遣隊SKaRD本部SKaRD CPの電話の受話器を持ったアオベエミは困惑の表情を浮かべていた。
「テルアキさん…ゲント隊長の息子さんが電話に出てるようです…。」
「ゲント隊長は!?」
 副隊長ナグラテルアキも目を丸くしている。
「ええ…怪獣が出てんのに…。」
「ゲント隊長の指示がないと私たちどうしたらいいのか…。」
 バンドウヤスノブもミナミアンリも固まっている。
 そう、実は横浜市に騒音を出す怪獣が現れ、対処の指示を仰ぐために休暇中のゲントの携帯に繋いだのだ。
「とにかく私が代わろう、携帯が家にあるならゲント隊長は近くにいるはずだ。」
 エミから受話器を受け取り、テルアキは深く息を吸う。実はゲントは特殊部隊勤務であることを妻子に話していない。防衛隊の施設科に勤めていると偽っている。息子さんに知られないようにゲント隊長に代わってもらわなければならない。テルアキは険しい顔をしながら優しい声で話しかけた。
「こんにちは、ジュンくん。私は施設科の副主任ナグラといいます。お父さんにお電話を代わってもらえますか?」
 一方のヒルマ家、ゲントは未だに雲を見つめている。携帯電話を握りしめたジュンは脳内でサトコの言葉を反芻した。パパにゆっくり休んでほしいんだ…パパにゆっくり休んでほしいんだ…そして叫んだ。
「パパはゆっくりお休みです!」
「!!!!!」
 テルアキは思い出していた。前にゲントが突然ヤスノブの野菜ジュースを奪い取り飲み干して吹き出したことを。あまりにもおかしな挙動───やはりゲント隊長は激務で───そして息子さんは───
「父親の体調を気遣っている!」
 号泣するテルアキ。
「まだ7歳…パパにいっぱい遊んでほしいでしょうに…僕なんて7歳の時父親にネジで兵隊作ってもらってましたよ…!」
 聞き耳を立てていたヤスノブも突っ伏して泣いている。
「何て優しい子なの…!あとヤスノブさんの子供時代何なんですかそれ?」
 同じように聞いていたアンリも顔を覆って泣いているがツッコミを入れる程度には冷静でもある。
「いやゲント隊長に出てもらわないと困ります。」
 エミは今の状況を忘れていなかった。
「そんなことはわかっている!」
「わかっているけど何かが僕らを動かしてるんです!」
「エミさん冷たいです!」
 三者三様のツッコミはテルアキが受話器を手で押さえているためジュンには聞こえていない。しかし通話が切れてはいないのでジュンは依然焦っていた。どうしよう、どうしよう、パパに代わった方がいいの?でも疲れてるパパを呼び出しちゃいけないんじゃないかな、どうしたらいいの?
「……!」
 はっきりとした言葉にならないような声がした。ジュンがハッとしてその先を見るとそこには驚いた顔の父親がいた。
ブレーザー……また君か……?」
 息子に聞こえないような小さな声でゲントは呟いた。遠い銀河からやってきた眩い光のウルトラマンブレーザー。いつも危ういところでゲントに力を貸してくれるその存在はこの頃度々彼の意識に侵食を始めている。野菜ジュースに興味を持ち、テレビ番組を見つめ、今日は雲の流れに目を奪われていたようだ。いつから…?いや待て、それよりなぜジュンが俺の携帯を持っている?電話の相手は?まさかSKaRDから?瞬時に状況を把握したゲントはジュンの目を見て静かに話しかけた。
「ジュン、携帯を返してもらえるかな?」
「パパ、ごめんなさい。」
 悲しげな顔で俯きながらジュンは携帯をゲントに渡す。
「いいんだよ、俺がぼんやりしてたから代わりに出てくれたんだよな?ありがとう。」
 父親の言葉で息子の表情はパアッと明るくなった。
「はいお電話代わりましたヒルマです、先程は失礼しました(ゲントだ、さっきは済まなかった)」
「ゲント隊長!」
 ホッとした表情でテルアキは状況説明をして指示を仰ぐ。
「その件でしたらまず横浜へはテルアキさんとヤスノブさんで向かってください(アースガロンにはテルアキとアンリが搭乗)」
「エミさんには現地での確認をお願いします(エミは現地で情報収集)」
「アンリさんは木の下から見てください(アンリは地上からの攻撃に備えろ)」
 ゲントは側にいる息子に勘付かれないよう隠語を交えながら指示を出していく。だが、
「私も向かいましょうか?」
 この言葉を聞いたジュンの表情が曇っていく。
「いいえ、私たちで対処可能です。良い休日を。」
 テルアキはそう答えて通話を切り、
「だいぶ時間を食ってしまったな、急いで取り返すぞ!」
 と語気を強める。
「「「ウィルコ!!!」」」
 3人の隊員たちは真剣な戦士の顔で答えた。
 ゲントも携帯を置き、ジュンと並んで空を見ている。今度は両目とも黒い瞳だ。
「ママ遅いねえ。」
「遅いねえ。」
「ただいまぁ。」
「ママおかえりー!」
「今日の晩ご飯はね、珍しくパパもいるからごちそうにするよー!」
「「わーい」」
 めったに3人揃わないヒルマ家だが、今日はとても穏やかな日となった。
 
 ちなみにこの日現れた怪獣(命名キングゼミラ)はひとしきり鳴いた後満足したのかアースガロンと交戦することもなく宇宙へ飛び去ったという。
「いやこの話のリアリティライン何なんですか?」
 エミのツッコミは大変ごもっともである。

 

パパの歌

パパの歌

タイトルの元ネタはもちろんこれ。